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仙台高等裁判所 昭和24年(を)166号 判決

主文

原判決を破棄する。

本件を福島地方裁判所郡山支部に移送する。

理由

弁護人勅使河原直三郞の控訴趣意は別紙の通りである。

その(五)について、

原判決の法令適用に関する判示が、單に法條を羅列したに過ぎないものであることは所論の通りで、簡略に失する嫌はあるが、爾余の判示と対照すると、その趣旨を了解し得ない訳ではないからそれ自体では不法を以て目することを得ない。食糧管理法第三十四條を挙げているのであるから原判示第二の同法違反の罪については懲役と罰金とを併科することとしたことは明瞭である。公文書変造罪又は変造公文書行使罪の懲役と、食糧管理法違反罪の懲役及び罰金とにつき併合罪の処断をするのに刑法第四十八條第一項をも適用しなければならないのに原判決には同條項を挙げてないことは所論の通りであるが、原審はその量刑において懲役と罰金とを併科しているのであつて、結局同條項に從う量刑をしているのであるから、同條項の適用を判決に挙示しなかつたことの瑕疵は原判決に影響を及ぼさなかつたものである。次に沒收の適條として刑法第十九條のみを掲げている点について、考察するのに、原判示の沒收物件たる主要食糧縣外移出許可証の変造部分を沒收している点については該変造部分は原判示第一の公文書変造罪の生成物件であり同上変造公文書行使罪の組成物件で、即ち刑法第十九條第一項第三号及び第一号並びに同條第二項に該当するものであることは原判決の判文上明かであり、かゝる場合にはそれを沒收するのに、それが同條第一項何号に該当するかは必ずしも判文の上に明示することを要するものではないからこの点は不法とはいい得ない。しかし、原判示の沒收物件の一つである精米の換價金七百十四円四十五銭なるものは、それが原判示第二の不法輸送行爲の組成物件たる精米約一斗五升のそれであることは、記録では明かであるが、原判決の上にはそれが何故に沒收されたかの理由について何等判示されておらず、單に法令の適用において「刑法第十九條」と書いてあるだけである、これでは沒收理由の判示として不十分であることは勿論で論旨のこの点は理由がある。なお論旨の内右換價金の内精米一斗の分をも沒收したことを不法であるとする点についても、原判決には後段説明するところにより、理由に不備又はくいちがいがあるものであつて、論旨はこの点でも理由がある。原判決はこれらの点で破棄を免れない。

進んで職権を以て按ずるに、原判決は、その第一において同判示主要食糧縣外移出許可証の改ざんを以て公文書変造に問擬しているのであるから、その改ざん当時同許可証が有効な公文書であつたと認めたものと解釈せざるを得ない。ところが、もしそれが有効な公文書であつたとすれば、被告人はその当時少くとも右許可証により、米一斗は之を輸送することを許されていた訳であるから、原判示第二の輸送米約一斗五升の内、不法輸送を以て目されるのは約五升のみであるということになる理で、從つて、逆に、約一斗五升全部について不法輸送を認めるならば前記許可証は当時全然無効なもので、之に改ざんを加えて眞正なものとして行使した被告人の行爲は公文書の変造行使に非らずして僞造行使となる筋合でなければならぬ押收の証第一号主要食糧縣外移出許可証の記載を見ると、移送年月日を昭和二十三年十一月二日としてある。もし同証による許可が文字通り同証記載の日のみに限るとせば同月二日以後は同証による許可は失効し、從つて、同証は本來の効力を失つたものであり、もし然らずして、その後相当期間に亘つて許可の効力を保持する性質のものであるとすれば、被告人の改ざん当時なお有効な公文書であつたということもあり得るわけである。何れにしても、これらの点を明かにせず、原判示第一においては改ざん当時有効な公文書と認め同第二では特段の事情をも示さずに輸送米約一斗五升全部について不法を認めた原判決は理由に不備又はくいちがいがあるもので、原判決はこの点においても破棄を免れない。

以下省略

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